2011年D1グランプリシリーズ 第8戦(最終戦) 10月22日(土)・23日(日) 富士スピードウェイ(静岡県)
もはや今村陽一に死角なし!! 最終戦で逆転によりシリーズチャンピオンを奪取!!
追走で3つのタイトルを手中にし、前人未到の通算4度目D1制覇、ダンロップとして2連覇を達成した
エビスサーキットでの大クラッシュを跳ね除けて今村陽一選手が3連覇の偉業を達成した。BOSSシルビアは5回の栄冠に輝くチャンピオンマシンとなった
エビスサーキットで行なわれた第6・7戦デュアルファイナルズでは、初日に今村陽一選手が単走で優勝、古口美範選手が総合優勝を飾った。2日目は日比野哲也選手が単走で優勝し、今村選手が追走で準優勝。昨シーズンに続いて、今シーズンのこの連戦もダンロップ勢が躍進した。しかし、既報のとおり今村選手が第7戦の追走トーナメント決勝戦で最終コーナーを立ち上がった直後にコンクリートウォールへ接触し、マシンを破損して競技を中止する波乱が起こった。幸いにも身体へのダメージがほとんどなく、マシンは修復され、9月に行なわれたエキシビジョンマッチ、D1チャンピオンズ・イン・セントレアに無事に出場。マシンは損傷した足まわりを中心にリフレッシュされており、エキシビジョンマッチでは連日とも優勝争いに絡み、安定感に優る面を早くも見せつけた。
さて、気になるのがシリーズチャンピオン争いだ。今シーズンは単走、追走、総合の3つの部門があり、第7戦を終えて、単走は野村謙選手が3位、今村選手が4位、古口選手が5位、日比野選手が6位と、3位~6位までをダンロップ勢が占めている。最高位の野村選手は、125ポイントを獲得。しかし、1位の斎藤太吾選手との差が27ポイントであるため、仮に最終戦を優勝して24ポイントを獲得し、斎藤選手がノーポイントで終わったとしても、残念ながら逆転することはできない。しかし、2位の高橋邦明選手とは1ポイント差であり、最高の順位で終わることを祈りたい。
追走は今村選手が1位、古口選手が5位、野村選手が7位、日比野選手が10位。これが第7戦を終了した時点でのランキングだ。ここでの注目は今村選手のチャンピオン争いであり、2位の斎藤選手に24ポイント差で、優勝へ王手をかけている。
そして、単走と追走の成績によって得点する総合部門。実質的は2011年のD1グランプリの覇者を意味する。この部門は、斎藤選手が185ポイントを獲得して1位につけ、王手をかけ、これを今村選手が9.5ポイント差で追う展開だ。初代の総合チャンピオンの称号、そしてD1グランプリ3連覇の偉業へ向けて逆転に望みをつないでいる。
さて、結果からお伝えすると、今村選手がシリーズチャンピオンの座を獲得。それも、追走、総合を優勝し、追走のシリーズチャンピオンと同時に総合チャンピオンの4つのタイトルに輝いた。
それでは、最終戦を見ていこう。
松川和也選手、箕輪慎治選手が最終戦の予選を突破。エビスでは不調に終わった松川選手だが、雨の難しいコンディションを見事に高得点で走り抜いた。箕輪選手はマシンの突発的なトラブルで1本目の単走をキャンセルする事態であったが、2本目に賭けて、予選2位で通過した。もともと富士が好きだという箕輪選手。松川選手ともに明日の決勝が楽しみだ
最終戦の予選は10月22日(土)に行なわれ、松川和也選手、箕輪慎治選手、河上善計選手、深田真弘選手の、4名のダンロップタイヤユーザーがエントリーした。
予選は午後から行なわれたが、天候は朝から生憎の雨。時折強く降るほどで、コースは完全なウエットコンディションでのスタートとなってしまった。
富士スピードウェイは、ヘアピンコーナーをメインの審査コーナーとし、300R手前からスタートし、ヘアピン立ち上がりまでを逆走するのが特徴。200km/h近い高い車速から300Rをドリフトで進入するところから審査が始まり、振り返してヘアピンへ進入し、クリッピングポイントを通過、立ち上がって審査終了だ。いったん雨となれば、高速コースゆえにマシンコントロールが難しくなる。午後2時から始まった予選は、雨はほとんど上がった状態であったが、コースはウエットコンディションのままで行なわれた。
この結果、松川選手と箕輪選手が予選を通過した。
松川選手は1本目のヘアピン手前で流され、ヘアピンのラインが小さくなってしまい、78点台と得点を伸ばすことができなかったものの、2本目は安定感のある走りで成功させ、98.07点を得点し、10位にランクインした。
箕輪選手は1本目のスタート前にオイル漏れがあり、1本目をキャンセルする事態となってしまったが、後がない2本目を300Rから果敢にドリフトで攻める勢いのある走りを見せて98.8点をマーク。これが堂々の予選2位通過となる得点であった。
一方、河上選手と深田選手は、コースコンディションに翻弄された格好で、ともに2本とも成功させることができなかった。
決勝日はシード4名と予選組2名の6名で戦うことが決まった。
シード選手はこの日、練習走行のメニューをこなしたが、日比野選手にマシントラブルが発生。なんと、エンジンを交換しなければならない緊急事態で、練習走行をキャンセルして作業が行なわれた。夜を徹した長時間の作業が続いた模様だ。
練習走行、予選と、4ドア車らしい豪快なドリフトを披露し、好調さを伺わせていた箕輪選手。単走ファイナルでも安定感のある走りで追走1stステージへと進出した
決勝日は予報どおり雨上がりの朝を迎えることができた。しかし、上空の雲が取れず、また、富士スピードウェイ周辺に濃い霧が立ち込め、朝の練習走行では時折コースを霧が覆い、視界不良を招いていた。
マシントラブルを抱えて前日の練習走行の大半を欠場した日比野選手。気になるマシンは無事に修理を終え、朝の練習走行にその姿を現した。ハイパワーな3Sエンジンで初の富士を迎えたわけだが、練習不足は当然否めない。競技にどんな影響が及ぶのだろうか。
注目の単走がスタートした。曇り空であったが、時折日差しがあり回復傾向を思わせた。路面はウエットと部分的にドライに変わるハーフウエットで、難しいコンディションが続いていた。
まず、登場したのは、予選を通過した松川選手。その1本目で300Rの飛び出しの勢い、角度ともに決め、その後のヘアピンへのアプローチライン、振り返し、アウトクリップ、ヘアピンのクリップにもしっかりついてミスのない走り。これで98.17点を獲得した。2本目は300Rの飛び込みを成功させたものの、振り返してから先のラインが小さくなり得点を伸ばすことができなかった。それでも結果は22位で追走1stステージへ進出した。
富士を得意なコースのひとつとする箕輪選手は、この日も豪快なドリフトを見せていた。単走1本目、振り返しまではよかったものの、振り返してから先のアウトクリップが小さくなってしまい、失速感と若干の角度修正を指摘され、97.33点と低い得点に。しかし、2本目は失速感があったと評価されたものの、ミスらしいところがなく、得点を伸ばして98.17点をマークした。松川選手と同点で、21位で追走トーナメント出場が決まった。
99点台を連発した今村陽一選手であったが、最終戦の単走ファイナルは6位で、斎藤太吾選手にさらにリードを広げられそうな気配だった
単走ファイナルの後半で登場したのは、予選免除のランキングベスト16の選手だ。まず、前戦のエビスの結果、シードへ返り咲きを果たした日比野選手。1本目はこの日トップの進入速度で300Rへ飛び込んできたものの、その後のラインを流され、ヘアピンのクリップでもやや流される走りとなってしまった。得点は98.83点。2本目は300Rの進入でインを通るラインとなり、これが響いて得点を伸ばすことができなかった。結果は11位。シード選手では5位の成績だった。
野村選手の1本目は、進入でややフラフラした部分があったものの、その後はミスなく、ヘアピンの立ち上がりでは白煙を上げる豪快なドリフトで見せた。得点は98.53点。2本目は、スピード感のあるドリフトで300Rの進入を決め、その後もミスなく終える。得点を伸ばして99.07点を獲得。9位で最終戦の単走を終えた。
年間ポイントランキング4位で最終戦を迎えた古口選手。富士は過去に優勝しており相性がよい。しかし、単走1本目はいつものスピード感に溢れた古口選手らしい走りではなく、全体的なラインが小さくなってしまう。97.73点はその時点で25位。2本目もやはり迫力不足で、全体的に小さくまとまってしまった。得点を伸ばすことができず、結果、まさかのノーポイントである25位で単走ファイナルを終えた。じつは、駆動系にトラブルを抱え、その様子を見ながらの単走ファイナルとなってしまったのであった。
そして、最後に登場したのが、ランキング2位で斎藤選手を追いかける今村選手。逆転総合チャンピオンを獲得するために、斎藤選手の上のポジションを得たいところだ。その1本目はディフェンディングチャンピオンらしく、全体をほぼミスなくまとめた。300Rの立ち上がりで若干ラインが流れてしまったところを減点されて99.37点の得点。2本目はさらに300Rの進入速度をアップしたものの、やはりその後のラインが流れてしまい1本目を上回る得点を出すことができなかった。結果は6位。ちなみに、単走ファイナルの優勝者は斎藤選手だった。
松川和也選手VS織戸学選手の追走1stステージ。強豪織戸選手の前に涙を呑んだ松川選手であったが、この大会では得るものがたくさんあった模様。来シーズンのさらなる飛躍に期待したい
追走トーナメントの1stステージが始まる頃になり、コースはほぼドライに変わった。サーキット上空には雲があったものの、過ごしやすい天候のなかで競技が続いた。
1stステージに出場したのは、予選、単走ファイナルと順調に進出してきた松川選手と箕輪慎治選手。しかし、両者とも残念ながらここで敗退が決定した。箕輪選手はRX-7のたかやまけんじ選手と対戦し、後追いで迎えた1本目の300Rの進入で姿勢を乱して失敗し、大きなビハインドを背負ったのが敗因。松川選手はスープラの織戸学選手と対戦。300Rを後追いから接近戦へと持ち込んだのはよかったものの振り返しで角度をつけ過ぎてしまい姿勢を崩してしまった。大きなアドバンテージを奪われ、先行で巻き返すことなく今シーズンを終えた。「ウエットの練習から調子がよかったんです。追走はシフトミスもあって負けましたが、織戸さんとの戦いはやり切った感がありましたよ。あとは精神面をもっと鍛えたいですね」と、終了後に松川選手はコメントしていた。
マシンにトラブルを抱えつつも奮闘し、熊久保信重選手とのベスト16の追走を戦った古口美範選手。惜しくも敗れ、追走はノーポイント。しかし、年間ポイントランキング4位で今シーズンを終えることができた
さて、いよいよ午後からはシード選手が出場するベスト16の追走2ndステージが始まった。
最初に登場したのは古口選手。単走で精彩を欠いていた原因はマシントラブル。「朝の練習走行でクラッチが滑りはじめていることがわかり、パワーをかけても思うようにクルマが反応しない」という状況で、パワーを抑えて走らざるを得なかったのだった。
対戦相手は熊久保信重選手(ローレル)。単走ファイナルで2位となり、この日は好調をキープしていた。このベテラン同士の対戦は、第1戦・お台場、第5戦・岡山国際、第6戦・エビスでも行なわれ、今シーズンは4度目。ちなみに1勝2敗の戦績であり、ここは勝って駒を進めたいところであったが、先行の1本目でミスなく終えるも、熊久保選手が300Rの進入からビタビタに寄せてくる攻めの走りで1.5ポイントのビハインドを背負い、後追いではインに入り切れずにイーブンに持ち込まれ、覆すことができなかった。マシンの不調で思い切った走りができなかったのがその原因だった模様。
「メンテナンスを怠らないようにやってきたつもりだったんですが。今シーズンは走る回数がとても多くなり、それだけマシンにも負担がかかっていたんでしょうね。クラッチだったので応急処置もできませんでした。残念です。でも、今シーズンは得るものが多かったし、エビスで初めて総合優勝することもできました。来シーズンは、もっと上を目指してがんばります。応援をよろしくお願いします」(古口選手)
エンジンを載せ換えして無事に本戦へ出場した日比野哲也選手。2ndステージの初戦で末永直登選手と対戦し、後追いでのミスにより敗退。今シーズンを終えた。総合ポイントランキングはひとつ落としたものの、8位となりシードのポジションを死守した
シードで最終戦を迎えた日比野選手は、末永直登選手(ランサーエボリューションX)と対戦した。単走で11位であったゆえに、ここは勝ってベスト8へ進出したいところ。先行が日比野選手で始まった1本目、300Rをスピード、角度ともにミスなく進入した日比野選手。単走のセオリーどおりの走りで、ミスなく終えた。対する後追いの末永選手にもミスがなく、審査席前でインに寄せられたが、ここはイーブンのジャッジに。入れ替わった後追いで日比野選手は300Rの進入でドリフトをやや戻してしまう。振り返し後のヘアピンではドリフトアングルをつけ過ぎた影響で流されてしまい、末永選手に対して合わせ切れないという状況で、無念の敗退。追走をノーポイントで最終戦を終えた。
「練習の朝1本目でエンジンが壊れて、直して決勝日の朝の練習と、いきなり本番の単走2本では合わせ切れなかったです。エンジンが代わって、どういう対処がいいか迷ったところもありました。(3Sエンジンは)パワーがあるから以前のように無理しなくていいのはよかったのですが、ちょっと欲張ってしまった面もあったと反省しています。今シーズン、単走で1勝はできましたが、総合が獲れませんでした。追走が今後の課題ですね。来シーズンもがんばりますよ」(日比野選手)
■松岡歩代表(DROO-P)のコメント
「エンジンブロックにクラックが入って、そこから生ガスが出てエンジンに着火してしまいました。幸い、これだけで済みましたが、エンジンはほぼ全損です。富士は3年間走って、いつも祟られている感じなんで、“え、またかよ”と思いました。でも、クラックを見つけることができて、スペアエンジンを載せたので本番でのエンジンブローという最悪の事態を免れました。この部分では神が降りてきていましたね。あとは祈るように本番を戦いました。マシンは去年まではここ富士では勝負にならない状態でしたが、今年は他車に置いていかれないように戦えることがわかりましたよ。スリップストリームも初めて経験したようだし。来季は未定ですが、FT86を視野に体制をつくれたらいいですね。松川は、もう芽が出ると思います。彼の頑張りはとても評価しています。あとは突き抜けさせてやる、これが僕の仕事だと思っています」
手塚強選手との対戦はサドンデスによる激戦となり、みごとにそれを征してベスト8へ進出した野村謙選手。ベスト8で末永直登選手に敗れてしまったものの、果敢に攻めのドリフトで観客を大いに沸かせて今シーズンを終えた
単走を9位で終えた野村選手は、手塚強選手(スカイラインGT-R)とのベテラン同士の対戦から追走トーナメントをスタートした。
先行でスタートした1本目、手塚選手に対してインを与えず逃げ切った野村選手であったが、後追いの手塚選手にもミスがなく、“スカイラインのツインドリ”という美しい形態をつくり、会場を大きく沸かせた。このジャッジはイーブンとなり、入れ替わって2本目をスタート。後追いの野村選手は300Rを立ち上がったところで手塚選手へ接近。そこから合わせるかと思いきや、振り返し後のラインがイン側となってしまう。手塚選手のアドバンテージとなったが、1ポイントの差で、規定によりサドンデスで決着することになった。その1本目も先行する野村選手にミスがない。しかし、後追いの手塚選手に300Rの進入からビタビタに寄せられてしまい、1ポイントのビハインドを背負ってしまった。覆すべく挑んだ後追いでは、今度は野村選手が300Rの進入からビタビタに寄せ、ヘアピンの立ち上がりまで終始この状態をつくり、会場を沸かせる。結果、ビハインドを跳ね除けて野村選手のベスト8進出が決まった。
ベスト8は、日比野選手を下した末永直登選手が対戦相手だった。後追いでスタートした1本目、進入から再びビタビタの攻めのドリフトを見せる野村選手。が、振り返したところで角度をつけ過ぎてハーフスピン状態となってドリフトを戻してしまう手痛いミスが出た。これで7対3のジャッジとなり、大きくリードを許してしまった。先行では角度をつけて300Rを立ち上がる。ヘアピンでインを許してしまったものの、ミスのないドリフトを見せた野村選手。しかし、アドバンテージを覆すことができず、ここで敗退が決まった。
結果、今シーズンの野村選手の戦績は、単走のシリーズランキング3位、追走ランキング8位、総合ランキング6位。シードで来シーズンを迎える。
「終わってみて、悔いはないかな、という感じでした。最終戦だから楽しもうと。ちょっと天候に左右されたとですが、最後は気持ちよく走れたとです。今年は1戦1戦がとても印象深かったですね。ありがとうございました」(野村選手)
■阿部成人監督(DFellow)のコメント
「今回はリヤにディフューザーを装着してトラクション対策をしてきました。路面の半乾き状態で苦労したところはありましたが、最終戦なので思い切り行きましょうと。最後は失敗してしまいましたが。思いのほかタイヤが温まってなく、ウォーミングアップを早くし過ぎたことが原因だったみたいです。もう少し走りたかったので残念でしたが、最終戦を楽しめたと思います」
高橋邦明選手を準決勝で破り、追走を優勝して逆転でシリーズチャンピオンに輝いた今村陽一選手。D1グランプリの歴史に残る、3年連続チャンプの金字塔を打ち建てた。こうなると記録更新に話題が移るか!? 来シーズンの活躍に注目したい
ダンロップ勢のシードの最後に登場したのが、チャンピオン争いをする今村選手。単走ファイナルはシード選手のなかで3番手で終えた。追走トーナメントは、シード選手の単走順位を反映し、対戦枠へ自動的に振り分けられる。シードの3番手の今村選手は右の山に入り、優勝した斎藤選手は左の山へ入った。つまり、シード選手同士の直接の対戦はベスト8からとなり、ゆえに今村選手が逆転を果たすには斎藤選手と同じ左の山、それもベスト8で直接対決するポジションが理想的だった。しかし、左右に分かれてしまったため、追走を優勝しても斉藤選手が総合で5位以内に入れば逆転の目はなくなる。しかも、富士スピードウェイと相性がよい強豪の斎藤選手だ。追走も昨年は3位の戦績を残しており、今村選手は非常に厳しいと言わざるを得ない状況となってしまった。まさに、勝敗の行方は神のみぞ知る、である。どんな作戦で勝負へ挑み、苦境を乗り越えるのか。今村選手の戦いに注目したい。と思っていたところ……、勝利の女神は微笑んでいた。なんと、今村選手が追走の初戦を迎える前に、斎藤選手が初戦で末永正雄選手(RX-8)に敗れたのだ。これで、優勝の目が今村選手に出てきた。
9.5ポイント差をひっくり返す確実な方法は優勝すること。総合部門は他選手の戦績も絡んでくるため、この不確定要素を勘案しなくてよい状態をつくるには優勝する以外にない。
まず、初戦は時田雅義選手(クラウン)が対戦相手で、先行する今村選手に対して時田選手がヘアピンで接触。これで大きなアドバンテージを得て、この勝負を決めた。しかし、まだポイント差は埋まらない。
ベスト8は強豪の川畑真人選手(180SX)。エキシビジョンマッチのセントレア戦では決勝戦で2回顔合わせして敗れているだけに不安がよぎる。先行の1本目で、ミスなしの今村選手に対し、300Rでドリフトを戻してしまう川畑選手のミスがあり、大きなアドバンテージを得て、後追いではビタビタ状態で300Rから接近戦へと持ち込んだ。終わって見ればあっさりと今村選手が勝利した。これでまた一歩チャンピオンの座に近づいた。
ベスト4の対戦相手はマークXの高橋邦明選手。今年、シェイクダウンしたばかりのマシンで好成績を残し、最終戦も単走で4位となり安定感を見せていた。この勝負は1本目、2本目とも両者にミスがなく、サドンデスで決着する好バトルとなった。先行は今村選手。ここでもやはりミスがない。対する高橋選手にもミスがなく、ジャッジはイーブンに。入れ替わった後追いで、300Rからビタビタ状態に持ち込んだ今村選手は、振り返しで同時振りを見せる気迫のドリフト。結果、高橋選手に勝利した。
ついに決勝を迎えることができた今村選手。そして集計の結果、この時点で今村選手が逆転し、総合チャンピオンの座を射止めたことがアナウンスされた。あとは、勝利して終えるのみ。
決勝の対戦相手はベスト16で斎藤選手に勝った末永正雄選手。後追いの今村選手は末永選手のインを伺うも入り切れなかった。ジャッジはイーブンとなって入れ替わって先行へ。2本目は末永選手がビタビタに寄せてくる。が、振り返した後のヘアピンのクリップへ向かうところで、末永選手が接近したままイン側から今村選手より鼻を出す状態となった。このままクリップへ向かうところで接触、今村選手は7対3のジャッジを得て、今シーズンの第1戦・お台場に続いて2勝目を飾った。同時に総合優勝、追走部門のシリーズチャンピオン、総合部門のシリーズチャンピオンに輝いた。
「エビスでクラッシュしてしまい、ポイントでも不利な状況をつくってしまいました。俺たちに残されている道は優勝する以外になく、後は太吾のポジションだけという感じだったのですが、俺たちはチャンピオンを獲るというより、最終戦を優勝してシーズンを終えたいというのがチームとしての大前提でした。ベスト16で太吾が敗退して、優勝の流れが来たかなというのはありましたが、ポイントのこととか、あまり意識していませんでしたね。とにかく追走で優勝することだけを目指して集中しました。ここでチームとして乱れなかったのも、そういう姿勢で挑んでいたからだと思います。追走を優勝して、フタを開けたらシリーズチャンピオンがオマケで付いてきたという感じです。シリーズチャンピオンを獲る怖さというものを十分知っていますし、その違いが出たかも知れません。ダンロップには感謝しています。僕が移籍して2年連続チャンピオンという恩返しができましたし、ダンロップのタイヤのおかげでこれを実現できたと思いますからとても嬉しいし、感謝しています。1年間、本当にありがとうございました」(今村選手)
■藤岡和広監督(TEAM BOSS)のコメント
「とにかく勝つことだけに集中しました。太吾選手とは、欲を言えばベスト8で直接対決したかったのですが、単走の結果でそれがなくなり、ポイントも離されてしまいました。単走が6位でしたから、追走を自力で勝ってもチャンピオンは難しいでしょう。しかし、追走に勝つことに専念しました。
クルマは富士スペックとしてエンジンを新品にしてパワーアップしました。でも、ブーストとNOSにエンジンが負けてヘッドボルトが伸びた状態となり、走るたびに冷却水を補充して、ギリギリのところでやっていました。昨年は移籍した年で、チャンピオンチームとしての成果が問われる年でしたから負けるわけにはいかず、結果としてチャンピオンになれて、その達成感はありました。今年は苦しみましたが、今日の結果を見て、3年連続で優勝できたことをとても喜んでいます。我々を拾ってくれたダンロップに感謝しております。一年間、応援ありがとうございました」
今シーズンを終えたダンロップの4選手。全員がシード選手として来シーズンを迎える
2011年は東日本大震災という未曽有の災害が発生し、モータースポーツの開催も一時は危ぶまれた。D1グランプリも例外ではなく、日程変更を余儀なくされた。また、事実上の初戦となったオートポリスでは悪天候に阻まれ、史上初の競技中止(追走不成立)の事態と、波乱続きのシーズンだった。そんななか、ダンロップ勢はシードの4選手を含めて奮闘。明るい話題を振りまいた。そして、大クラッシュしたエビスから今村選手が復活を遂げ、最終戦で2年連続のチャンピオンをダンロップにもたらした。終わってみれば、中央にダンロップの幟(のぼり)がはためいていた。今シーズンもダンロップ勢が大活躍。
この勢いで来シーズンもダンロップに栄冠あれ。