第8戦(最終戦) 10月11日(日) 富士スピードウェイ
野村が泣いた富士頂上決戦
前日に行なわれた予選でグループのトップ通過となった猪瀬徹選手
2009年のD1グランプリシリーズを締めくくる第8戦は、秋晴れのなかで始まった。前日の第7戦は午前中に雨が降り、練習走行、単走の1回戦は路面がウェットの滑りやすい状態となり、ドリフトの姿勢を崩すなどミスをおかす選手が続出。あらためて富士スピードウェイを攻略する難しさを知ることとなった。開催日2日間を2連戦するデュアルファイナルズは、2日目の予選が前日に行なわれるのが特徴で、第8戦の予選は、この悪条件のなかで始まっていた。それはまず、第7戦予選不通過選手の♯(シャープ)グループからスタート。ここに出場したのが猪瀬徹。その1本目は300Rの立ち上がりで速さを見せ、滑りやすく難しいコンディションにも関わらず、ラインもキレイに決めて98.75点をマーク。2本目はヘアピンの手前でスピンを喫してしまうものの、1本目の得点が♯グループトップのポジションをキープした。箕輪慎治はハーフウェットの路面に翻弄されて2本とも失敗してしまい、2009年のシリーズを終えた。林渡は、1本目に97.25点をマークし、小畑仁宏は1本目に97.6点を得た。条件の悪いなかをなんとか予選通過へと望みをつなげた格好だった。しかし、この後で行なわれた第7戦予選通過者の1回戦(単走)の得点がそのまま第8戦の予選得点となるため、順位がどんどん下がっていき、結局、♯グループではトップの猪瀬だけが予選を通過。また、第7戦の1回戦で敗退した選手が、♯グループで暫定的に予選通過となった最下位選手の得点を上回っていない場合は、ラストチャンスクォリファイと呼ばれる予選枠で再度挑戦することができた。ラストチャンスクォリファイに出場したのが加藤貴也選手。基準となる97.57点超えを目指したものの、残念ながら成し得なかった。
結果、最終戦の1回戦進出者はシード選手の野村、日比野と、♯グループトップの猪瀬、第7戦1回戦で3位の得点となる99.12点をマークした古口の4名となった。
1回戦でさらに調子を上げる猪瀬選手。堂々の10位でトーナメント進出
1回戦の単走にまず出てきたのが、練習走行でも好調さを伺わせた猪瀬。高い進入速度から角度をつけた300Rの飛び込み、そこから振りっかえしてヘアピンへと果敢にドリフトアタックする。ヘアピンでややインに寄ったラインとなるものの、98.6点を獲得。2本目は1本目を上回るかというほど300Rの進入がさらにスピード感で溢れ、角度、振りっかえしてからの速度とラインも文句なし。それは「猪瀬らしい走りだ!」と審査員席から声が挙がるほどキレがあり、観客を魅了するカッコよさだった。得点の99.1点は1回戦の突破をもたらした。
1回戦でまさかの敗退となるも古口美範選手にとって実りの多いシーズンだった
1回戦のふた組目に登場した古口は富士スピードウェイとの相性がいい。高い進入速度から豪快に振ってもっていく走りに注目が集まったが、1本目は審査員席近くでまさかのスピン。振りっかえしのときにやや膨らんだアウト寄りのラインとなったことで、ダートに足をすくわれたことが原因ようだ。得点が47.5点と低く、次の1本でつなぎたい。2本目は300Rの手前から振って進入、スピードも角度もある。振りっかえし、ヘアピンもキレイにまとめた。98.75点を獲得し、この時点で9番手に浮上した。しかし、シード組が1回戦を終えた結果、日比野と同点となり、1本目の得点が高い日比野が16位。古口は惜しくも17位で1回戦敗退となった。「今日は組み立てがうまくいかなかったです。昨日(第7戦)は追走で思うようにコントロールできない面があったので、今日はマシンを追走重視のセットで挑んだのですが、単走がおろそかになっちゃいましたね。でも、新たな発見もありましたので、次のシーズンにつなげたいですね。もちろん、180SXで走りますよ! 1年間ありがとうございました」と古口。ポイントランキング14位とシードにはわずかに届かなかったものの、2010年シリーズもスピードを生かした走りで魅せてくれることだろう。
復調を思わせる走りで1回戦を突破した日比野哲也選手
シード組でまず1回戦に登場したのが日比野。金曜日の練習走行後にエンジンが不調となり、急きょスペアエンジンを載せて第7戦に挑んだものの、ふたたびエンジンに問題をかかえて1回戦敗退となった。エンジン不調はエンジンそのものではなく、どうやら電装系に問題があったとの情報が伝わる。完調とまではいかなかったもの、安心材料ではある。その1本目は300Rからスピード感、角度とも日比野らしさが戻っていた。ヘアピンまでキッチリきめて98.75点をマークした。2本目はさらに進入速度の高さを思わせた300Rの飛び込みだったが、角度がやや浅くなり、振りっかえしてからヘアピンのラインがややイン側となる。97.65点だったが、1本目に出した得点で16位での追走トーナメント進出を決めた。
野村謙選手本来の走りが見れぬまま1回戦でまさかの敗退となった
シリーズ初制覇を目指す野村は、日比野に続いて登場。ポイントランキング3位で、まだチャンピオンへの望みはある。もちろん、安定感の高さもバツグンな野村だけに、もはや周囲の注目はチャンピオンがかかる追走トーナメントの組み合わせへと向けられているようなものであったが、ここで予期せぬ大波乱が起きてしまう。なんと、1回戦で敗退となってしまった。これは05年のD1グランプリ第2戦のお台場以来、じつに4年ぶり。その1本目は300Rの進入速度が高いものの、振りっかえしてからヘアピンまでの速度が落ちてしまう走りが指摘され、98.7点。まさにあとがない2本目は、300Rの進入でラインがやや奥となったためか、振りっかえしてからバリサイドが入り、ヘアピンまでのスピードが遅くなったという指摘が再び入ってしまった。1本目を上回る得点を得られず。17位で1回戦を終え、この瞬間、チャンピオン争いも消えるという、あっけない2009年シリーズの幕切れとなった。「土曜日(第7戦)はエキマニにクラックが入ってマシンは本調子じゃなかったんですが、メカニックが徹夜で作業し、完ペキに仕上げてくれました。目に見えないプレッシャーにやられましたね。お客さん、スポンサーさん、スタッフを9年待たせている。これを考えると最終戦はもう限界だったんだと思います。プレッシャーになり過ぎて、自分では気がつかないうちに手を抜いて走ってたんだと思います。ベスト16に残りたくて。でも、他の選手はみんな、それこそ命がけで300Rへ飛び込んでいっとるとですよ。その違いがお客さんにも伝わっていたと思います。申し訳ないです。今シーズンは、エビスで優勝した際先よくスタートを切りました。エンジンも途中で新しくなって安心して踏んでいけるようになり、シリーズランキングもトップで後半へと折り返したわけなんですが……」と野村選手。来シーズンのさらなる飛躍に期待したい。
富士では不利なハチロクで大健闘した日比野哲也選手
追走トーナメントに出場した日比野は、トップで駒を進めてきた川畑真人(180SX)との対戦となった。昨日の第7戦で優勝とノリにノッてる川畑は、この日も絶好調という走りを見せていた。ターボの180SXとは性能差が歴然であり、富士スピードウェイのようなハイスピードコースはハチロクがいっそう不利となる。しかも完調ではないハチロクで挑むのだ。「もう、自分とマシンの持てる力をすべて出し切って走るだけです」と、出走前にコメントしていた日比野だったが、やはり性能差が明確であり、先行川畑で始まった1本目は300Rからヘアピンまで川畑に詰め寄ることができない。入れ替わって先行するも、川畑にきっちりと合わせられ、ここで敗退が決まった。「やはり相手になりませんでしたね。過去に3回ぐらい富士の追走トーナメントに出てますが、相手がミスしないと厳しいです。今回、それがハッキリとわかりましたので、来年にむけて対応すると思います」と日比野。ポイントランキングは堂々の5位となりシード確定だ。来季の活躍にも注目したい。
猪瀬徹選手VS末永正雄選手
追走トーナメントに10位で進出した猪瀬は、富士で昨年、一昨年と最終戦で優勝している末永正雄(RX-7)。これまで対戦してまだ1勝をあげていない猪瀬だけに、一矢を報いておきたいところだったが、後追いでスタートした猪瀬は300Rの立ち上がりでラインをミス。ヘアピンで末永のインに入るも痛恨のスピン。大きなアドバンテージを与えてしまう。先行ではノーミスで走る猪瀬。だが、アドバンテージをもらった末永は手堅く合わせるだけに徹し、猪瀬の敗退が決まった。
走行後、観客に挨拶をする野村選手。ランキング1位だった手塚強選手も1回戦敗退を喫した
野村の優勝で始まった2009年のD1グランプリは、野村がポイントランキングでリードし続け、さらに終盤になって日比野が野村を上回るポイントを獲得するなど、ダンロップ勢は最後まで熱い戦いを繰りひろげ、D1グランプリを盛り上げた。来シーズンはD1グランプリが節目となる10周年を迎える。勝利の女神がダンロップに微笑むことを祈りつつ、今シーズンの選手たちの健闘を称えたい。