D1グランプリ第7戦 10月16日(土) 富士スピードウェイ(静岡県)
野村謙選手、古口美範選手がベスト8へ進出
来シーズンへの期待がかかる


第6戦のエビスサーキットで大破したブリッツスカイライン。最終戦はアメリカで使っていた1号機をベースに急ピッチで仕上げて挑んだ。スカイライン、そして野村謙選手の元気な姿があった

2010年のD1グランプリシリーズも最終戦を迎えた。事実上、今シーズンの天王山の戦いとなったエビスサーキットで行われた第5、第6戦では、両日ともダンロップ勢がみごとワンツーフィニッシュを飾った。2日目にダンロップのエースである野村謙選手がマシンを大破させる大ハプニングもあったが、幸いにも野村選手の身体に大事はなく、予定通り最終戦を迎えることができた。持ち込んだマシンこそ、同じスカイラインでアメリカで使用していた1号機(ミドリ号)と呼ばれているスペアカーとなったものの、練習走行日から野村選手の元気な姿がそこにあった。
一方、ダンロップに初のタイトルをもたらしたシリーズチャンピオンの今村陽一選手も、最終戦にむけて着々と準備をしてきた。実は、エビスの連戦では、マシンにシャーシトラブルが発生し、夜を徹しての修復作業を行った。好調な今村選手とはいえ、機械を相手する競技であるため“絶対”はないのだ。しかし、そんな状況下での3勝目。エビスの1勝は大きかった。これが最終戦を待たずしてのタイトル獲得だった。最終戦が行われる富士スピードウェイはここ数年、今村選手は勝ちに恵まれず、決して相性が良いとはいえないものだったが、昨年はここでチャンピオンを決め、更に今シーズンは第3戦で2003年以来となる7年ぶり(逆走のコース設定となってからは初)の優勝を遂げた。シリーズ戦4勝目、歴代最多優勝の記録更新がかかってもいるこの最終戦に、どんな戦いを挑むのであろうか。
そして、第5戦のエビスサーキットで、念願の1勝をあげた日比野哲也選手。ポイントランキングは第6戦を終えた時点で、野村謙選手を抜いて3位となった。D1ではパワー勝負での不利を否めないハチロクだが、今年の戦いぶりは本モノ。ドリフトがパワー勝負だけではない事をまさに証明していると言える。とはいえ、D1グランプリ開催サーキットの中でもハイパワーが必須な富士スピードウェイでの戦績を見ると、昨年は1回戦敗退を喫するなどこれまで芳しくない。最終戦での奮闘に期待したいところだ。
また、現在シリーズポイントが10位の古口美範選手は、シードをかけての戦いとなる。2008年では富士スピードウェイで初優勝を遂げており、得意コースとしている。スピードを武器とするアグレッシブなドリフトに注目しよう。

惜しくも追走トーナメントから漏れてしまった松川和也選手だが、ポジションは上昇機運にある。来シーズンに期待したい

最終戦の10月16日。富士スピードウェイ上空には多少の雲がかかっていたものの、さわやかな秋の陽射しがあり、良好なコンディションのなかで行われた。
今回は予選は無く、シードを含めて、エントリーした全選手が決勝日の1回戦からスタートとした。
出場したダンロップ勢は、シードの4選手と、福田浩司選手、猪瀬徹選手、箕輪慎治選手、松川和也選手に加え、林渡選手、村田郁雄選手の姿もあった。
練習走行を終え、いよいよ単走で行われる1回戦が始まった。1回戦は、4グループに分かれ、各選手とも2本を走り、点数の高いほうを抽出して、順位づけされる。シード選手は一番最後の組で登場した。
この結果、シード以外の選手は、残念ながら1回戦敗退の結果に終わってしまった。ハイスピードコースを得意としている猪瀬選手も満足な形で走り終えることができず、また、調子を上げていた箕輪選手や、安定感が光る福田選手もいま一歩、富士を攻略しきれなかったようだ。更に、松川選手は17番手で惜しくも追走トーナメント進出を果たず終了。好調な走りを見せていただけに悔しさは否めない。実は、第3戦のここ富士でも17番手で1回戦敗退を喫している。「何かが足りないんですよね」と、大会終了後にコメントしていた松川選手。その“何か”を見つけた時、ジンクスを跳ね除けて大きく花開く可能性を十分秘めている。来シーズンの活躍に期待しよう。

練習走行日でエンジンが不調となり、急きょ載せ換えて挑んだ単走の1回戦であったが、エンジンブローでリタイヤ。最終戦をノーポイントで終えたものの日比野哲也選手はシードで来シーズンを迎える

そして、最終戦ではシード選手にも波乱が起きてしまう。それは日比野選手だった。ポイントランキング3位で富士に乗り込んできた日比野選手は、練習走行日からマシンの不調に見舞われていた。エンジンを載せ換える懸命な作業を行ったものの、1回戦1本目の走行中にエンジンブローをきたし、あえなくリタイヤとなってしまった。D1マシンはいずれもハイパワーで、パワーユニットの限界までチューニングされている。日比野選手のマシンは1600ccというコンパクトなエンジンがベースであり、2.0L以上がベースのハイパワーマシンと互角に戦うべく、限界ギリギリのところを使って走らせており、各部の消耗は容易に想像できる。さすがにここへ来てダメージがダメージが表面化したようだ。「1回戦のスタート直後から、エンジンの吹き上がりに違和感があったんです。重たい感じで。そうしたらヘアピン手前でブローしました。悔しいですね。今年はお台場で準優勝し、前回のエビスで優勝することができました。今シーズン、ターゲットとしていたところで結果を残せたし、あとはポイントの取りこぼしをしないように努めました。やれることをすべてやったという感じですね」
なお、最終戦はノーポイントで終わってしまったが、ランキング5位の結果となり、来シーズンのシードが確定している。

1回戦の1本目でミスを犯すも、2本目でキッチリとポイントを獲得する安定感はさすが。今村陽一選手は順当に追走トーナメントへ駒を進めた

今村選手の1回戦は、1本目でヘアピン付近で失速するミスをおかしたものの、さすがはチャンピオン。2本目は300Rの立ち上がりからドリフト状態でのスピード、角度、ラインともに完璧なドリフトを見せる。更にヘアピン立ち上がりまでキレイに走りをまとめて99.46点をマーク。13位での追走トーナメント進出となった。
これに対して古口選手は1本目から見せた。300Rの進入からスピードに優り、シャープな動きで振り返してヘアピンを目指すそれは美しいばかりのドリフト。結果、8位での進出が決まった。

スペアカーでの参戦ゆえに、コンディション的に優れなかったという野村謙選手だったが1回戦の走りはベテランらしい安定感バツグンで、迫力のドリフトを見せてくれた

マシンをチェンジしての参戦となった野村選手は、決勝日に与えられた15分間が事実上の練習走行となった模様だ。しかし、そこはダンロップのエースだけあり、1本目から見せてくれた。角度をつけての速い300Rの立ち上がりからスピーディに振り返し、ヘアピンも完璧なラインで終え、この時点でトップとなる99.83点を獲得。2本目も同様に安定した走り。この結果、堂々の3位で1回戦を終えた。マシンチェンジしたとは言え、野村選手らしい安定感が光る走り。会場を沸かせる元気な走りが戻ってきた。追走トーナメントでどんな戦いを見せてくれるのか楽しみだ。

得意のスピードコースの富士であり、1回戦から好調な走りを見せていた古口美範選手だっただけに、リズムを乱したという川畑真人選手との対戦には悔しさをにじませていた

雲こそあったものの、午後からの追走トーナメントも絶好のコンディションの中で行われた。
ダンロップ勢でまず登場したのは古口選手。ベスト16の対戦相手は佐久間達也選手で、180SX VS シルビア対決となった。佐久間選手は1回戦で好調な走りを見せており、手強い相手となりそう。先行は古口選手。300Rの立ち上がり、古口選手はミスなくしっかり角度をつける。一方の佐久間選手にミスが出て、アウト側に流されてしまう。しかし、そこから古口選手が逃げるも、佐久間選手はドリフトでヘアピン立ち上がりまで合わせていく。さすがにうまい。しかし、ここは6:4で古口選手のアドバンテージとなった。後追いでは前を走る佐久間選手に対して、300Rから接近ドリフトで古口選手は挑んだ。振り返しでは接近したまま絶妙なタイミングでマシンを一旦引き、振り返してから再び合わせるというスーパーテクニックを披露。これで勝負が決まり、古口選手が貫禄でベスト8へ進出した。
ベスト8の対戦相手は強豪の川畑真人選手だった。1回戦の単走で唯一100点をマークした選手であり、波に乗っている。富士を得意とする古口選手も、川畑選手に翻弄されてしまったようで、後追いでリズムを乱すことに。ヘアピンで川畑選手にドリフトで合わせていくが、立ち上がりで後ろに回り込むラインとなり、大きなアドバンテージを与えてしまう結果となった。先行ではノーミスで走ったものの、川畑選手も古口選手に対してドリフトで合わせ、ミスのない走り。ここで古口選手の敗退が決まった。
「スタートで出遅れてしまい、そこからリズムを乱しちゃいましたね。今年は、シードに入り続けるという目標もありました。でもそれじゃいけないですね。もっと上を目指さないと。来シーズンはつまらないトラブルをなくし、いつもベストの状態で挑みたいです」

織戸学選手とベスト16で対戦した今村陽一選手。ベスト16での敗退は今シーズンで初だった

今村選手は織戸学選手とのベスト16の戦いだった。織戸選手は第4戦の岡山で準優勝しており、速さを伴うアグレッシブなドリフトを武器とした強豪だ。安定感にも磨きがかかっている。この強豪を、追走トーナメントで高い勝率を誇る今村選手がどう対峙するかに注目が集まった。まずは今村選手の後追いで開始。先行の織戸選手を接近した位置で300Rからドリフトで合わせて立ち上がってゆく今村選手。振り返しからヘアピン立ち上がりまでしっかり合わせるものの、ヘアピンのアールが小さいと指摘が入る。しかし、織戸選手がヘアピンでわずかにドリフトを戻してしまうミスがあり、若干のアドバンテージを得た。しかし、入れ替わった先行で、今度は今村選手がヘアピンでドリフトを戻してしまう痛恨のミス。対して織戸選手にミスがない。これで勝敗がつき、今村選手の敗退が決まった。
「ヘアピンでシフトミスをしちゃいました。チャンピオンが決まって、肩の荷が下りたというか、ちょっと乗れていない感じは確かにありました。今年はダンロップに移籍しましたが、ダンロップの方々が温かく迎えてくれ、そしてチャンピオンになることができました。野村さんにも刺激され、野村さんのリーダーシップがあったからこそダンロップ勢が盛り上がり、その結果としてチャンピオンになれたんだと思います。そして、自分で獲りにいったチャンピオンだったから、喜びもより一層大きいですね。1年間、本当にありがとうございました」

ベスト8で高山健司選手に敗れてしまったものの、ファンを魅了する走りで最終戦を大いに盛り上げた野村謙選手

1回戦で好調な走りを見せた野村選手は、熊久保選手との対戦だ。先行は野村選手。300Rの出口で熊久保選手が合わせてくる。さすがに追走名人と言われる走りだ。逃げたい野村選手だったが、振り返しでも熊久保選手がしっかり寄せ続ける。しかし、ヘアピン手前で熊久保選手が失速するミスをおかし、前を行く野村選手に合わせきれない。アドバンテージを得たのは野村選手。入れ替わっての後追いでは、野村選手が熊久保選手に対しての果敢な接近ドリフトだった。それは300Rの立ち上がりからヘアピンの立ち上がりまで続き、ここで勝負あり。野村選手のベスト8進出をきめた。
ベスト8では高山選手が対戦相手となった。過去に数回対戦しており、野村選手が全て勝利を収めている。先行は野村選手。300Rの立ち上がりから、振り返しポイント、ヘアピンの立ち上がりまでノーミスの野村選手に対して、高山選手は振り返しで果敢にインに入る。しかし、その先のヘアピンで間隔をあけてしまった為にイーブンとなり、勝負は2本目へ。後追いは野村選手。300Rから高山選手にドリフトで合わせていく。しかし、振り返しで前を行く高山選手に対して接近していた野村選手がマシンをヒットさせ、高山選手のスピンを誘発するという痛恨のミスをおかしてしまう。これが決め手となって野村選手の最終戦はベスト8で終了した。
「皆さん、ご心配ば、おかけしたとです。おかげ様で身体は何となく大丈夫ですとよ。こないだまで、首が360度グルングルン回っとったとですが、今は右90度、左70度、上45度、下60度(ライターさんメモして)の角度で動くようになっとるとです。今回はエンジンセッティング用センサーのトラブルがあったりで、まともに練習走行もできませんでした。1回戦でもクラッチベアリングのトラブルがあったりしましたが、タイヤを信頼して挑んだ結果、うまくいったという感じですばい。もう、新品タイヤの皮むきもせんと、そのぶんを計算して走ったら、ドリフトとリンクさせられるじゃなかですか!! 高山選手には負けてしまいましたが、楽しく走れました。ファンの皆さんには10年間お待たせして、チャンピオンをまたしても逃してしまいましたが、来年は、来年こそは、と言って、ちょっとあきらめてもらっとってですね……。でも、闘志メラメラですよ。来シーズンも楽しく走らせてもらいますので、応援よろしくお願いします。ありがとうございました」

2年連続のシリーズチャンピオンを決め、賞金100万円を獲得した今村陽一選手。通算で3回目のチャンピオンは今村選手だけ。優勝回数も最多である

最終戦・富士スピードウェイのダンロップ勢は、ベスト8止まりという結果となってしまったが、10年の節目を迎えた2010年のD1グランプリは、初のタイトル獲得という、ダンロップにとって記念すべきシリーズとなった。また、シードの4選手は、来シーズンも変わらずシードのままで迎えられることが確定している。
来シーズンも選手は一層の活躍をしてくれるだろう。

■阿部成人監督のコメント
「今回は、以前アメリカで使っていた車両で参戦しました。前回のエビスでクルマを壊してしまい、直すこともできたのですが、時間的な問題もありましたから。それでも、フレーム以外はすべて作り直してますよ。ベスト8で終わりましたが、基本的に同じクルマなので乗りやすかったのではないかなと思います。来シーズンですか? もちろんシリーズ……といいたいところですが(笑)。今シーズン同様に気負いなく、楽しみながら参戦したいですね」

■藤岡和広監督のコメント
「今シーズンからダンロップタイヤを装着したわけですが、シリーズチャンピオンという形で恩返しができ、とても嬉しく思っています。前回のエビスでは、シャーシトラブルもありましたが、決して諦めず、またみんなの協力や、運もあり、最終戦を待たずにチャンピオンを決める事ができました。ターニングポイントになったのは、第3戦の富士ですね。お台場で勝ち、しかし、次のオートポリスでは負けました。嫌な流れだったところを第3戦、それも得意ではない富士で勝つことができたおかげで、流れを引き戻す事ができたと思っています」
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ニュルブルクリンク2014