第8戦 10月11日(金)~10月13日(日) 第41回M.C.S.C.ラリーハイランドマスターズ2013
伝統のハイランドでダンロップ勢が全クラス制覇
JN3クラス横尾芳則が圧巻の強さで優勝を飾りチャンピオン獲得!
フィニッシュは秋晴れに恵まれた今年のハイランド。全クラスでダンロップ勢が勝利を飾り、イベント後に屋外で行われた記者会見では、ダンロップキャップが勢揃いした。
2013年の全日本ラリー選手権も、残すところあと2戦。依然として3クラスでタイトル争いが続いている中で緊張の一戦の舞台となったのは、岐阜県高山市。今年で開催41回目を迎える伝統の「ハイランド」だ。かつてはカーブレイクラリーと呼ばれた難関グラベルとして名を馳せたイベントは、 2008年からオールターマックに一新。速度域が高いスプリントラリーとして、シーズンの終盤を飾っている。今年もHQ(大会本部)とサービスパークは、高山市郊外のモンデウススキー場に設置。隣の山に位置するひだ舟山スキーリゾート・アルコピアにはギャラリーステージも設定され、2日間で計4本のステージ観戦を楽しめた。一方、ラリーウィークは中盤から天候が不安定となり、レッキ時には路面にウエットが残る部分も。スタートを控えた金曜日夜には大雨に見舞われたほか、風も強く、イベント前に主催者が苦労して掃除したステージも、再び落ち葉で覆われるところも。一方で、例年よりも気温は高く、通常なら周辺を紅葉が彩り始める季節だが、今年はまだその兆しもなく、路面の状況とコンディションが極めてトリッキーなイベントとなった。では早速ダンロップ勢の活躍を見てみよう。
ライバル不在となった状況での難しさ。3連覇王者にしてさらに新しい経験を積んだ勝田/足立は、地元で開催される最終戦でタイトル獲りに挑む。
前戦のラリー北海道で逆転勝利を飾った勝田 範彦/足立さやか(インプレッサ)。タイトルに望みをつないで、残り2戦を勝田が得意とする舗装戦で迎えるという、タイトル争いがまさに振り出しに戻った展開となった。しかし、勝田は、思わぬ形で試練を強いられることになってしまった。ライバル奴田原が、SS1の序盤でクラッシュアウトしてしまったのだ。いずれの選手も、路面にウエットが 残っていることは懸念していた。しかも、金曜日夜の雨と風で路面のコンディションが入り乱れていた。レッキ時にウエットだったところがドライになっていたり、レッキ後にウエットになっていたポイントでコントロールを失ってしまう選手もいた。タイトル争いをする奴田原もクラッシュに見舞われた。ターマックスペシャリストの異名を取る勝田でさえ、この事実には複雑な思いだった。しかしこれで思いがけず厳しくなったのは、モチベーションの維持。ラリー全般を通して2位につけていた、急成長中の高山仁/竹藪英樹(インプレッサ)は「前(の勝田)が強すぎて。今日はもう、流しているんですかね」と言わしめるほどだったが、いつも以上にペースを落とすとリズムを崩してかえって危険だ。事実、当の勝田は「タイトルを争うライバルがいなくなってしまって、目指すものがなくなってしまった。あらかじめターゲットタイムは決めていたので、そこを目指していましたが、それがなければ目標がなく、ダレてしまっていた。相手がいないと、ここまで力がでないものかと思い知らされました。好敵手とは、本当に偉大な存在だなと思った。モチベーションを維持するのが大変で、よからぬことを考えてしまってクルマのささいなことまで気になるようになってしまった。辛かったですね」しかし、ここで自分もコースアウトしてしまっては勝負にならない。この経験したことのない状況に耐えながら、自分らしい走りを絞り出して、全ステージをクリア。「タイムのことは何も考えてはいなかった。1本くらい、誰かに負けたかと思ったけれど」と言いながらも、結果的に全SSベストタイムで、2位以下に1分02秒6の大差をつけて優勝。最終戦新城で、頂上決戦に挑む。
話題の多いJN3クラスでシーズンを通して安定した速さを披露してきた横尾。目標通り4勝を収める鮮やかなタイトル獲りだった。
今年はさらに車種の範囲が広がり、人気の高さと比例して争いも激しくなっているJN3。この激戦区にあって今季、安定した強さを誇っているのが、 横尾芳則(86)。中盤で3連勝を飾り、初めて参戦したAPRC併催のロンググラベル、前戦の北海道では百戦錬磨の地元強豪に貫禄勝ちを見せつけられたものの、キッチリ2位フィニッシュでまとめ、このハイランドでタイトルチャンスをつかんできた。今回はコ・ドライバー、永山聡一郎と組んでの参戦だ。ポイントランキングでは、2位の香川秀樹に25ポイント差以上をつけている横尾。タイトル獲りのためのターゲットとしては、「6位あたりに入れれば問題なし」と判断はしていたものの「ハイランドは自分自身も久しぶりのラリーだったので、経験を積むためにも、いつも通りの走りをしてうまく行くか行かないかを勉強しようとう思いで臨みました」と気負いはない。SS1、6.16kmの駄吉下りでは奴田原がクラッシュアウトしたこともあり、クルー全体に緊張感が走る。横尾自身久しぶりのハイランド、とは言いながらも横尾はこのSSで曽根崇仁/桝谷知彦(86)に3.3秒差をつけてのベストタイムをマーク。その後も、曽根に1本、山口清司/島津雅彦(レビン)に2本のステージウィンを許しながらも、計7本のステージウィンを獲得。自分らしい走りで山口に18.1秒差を築いての今季4勝目を飾り、86で初めて挑んだ今季、全日本タイトルを手にすることとなった。3年ぶりに全日本に挑んだ横尾は、「シーズン前、自分の目標としては、有効ポイントが7戦なので、少なくとも3勝か4勝すればチャンピオン穫れるだろうなと計画を立てていました。それがしっかり達成できて、本当に安心した。この2日間は、ポイント差がかなり開いていたので気負いはなく、小さなミスはちょこちょこありましたが、速すぎるということもなく危ない思いもしなかったので、終始、走りもタイムも安定していましたね」と横尾は、まさに目標通りにシーズンを戦い抜けた。「自分の中ではまだ、明確な戦略を立てることが出来ていないので、1年通していいことも悪いことも吸収して積み重ねていかなくてはならないなと思っていました。次戦、最終戦の新城は、チャンピオンとして参戦することになるのですが、チームのお膝元ということもあるので、ノンビリ走る訳にもいかないですね(笑)今日と同じように、シリーズの一戦として自分らしく走りたいと思います」と、既に王者の風格を覗かせるような頼もしさを感じさせた。
舗装での強さは譲らない!北海道でのリベンジに挑んだ天野/井上がタイムを出せる区間でしっかり引き離す巧みな戦略で見事にクラス優勝を決めた。
前戦北海道で若手の川名賢(ヴィッツ)がタイトルを決めたJN2クラス。しかし、ターマックではこの若き王者に一度も勝利を与えてはいない。前年王者の天野智之/井上裕紀子(ヴィッツ)にとっては、コ・ドライバーの井上のタイトルを懸けてハイランドに挑むこととなった。トリッキーなコンディションに影響を受けやすいコンパクト車両。マシンコントロールも過酷を極める中、若き川名賢/小坂典嵩(ヴィッツ)は、SS1でストップしてしまう。その後は、群馬戦以来となったベテランの石田雅之/遠山裕美子と、またレグ2からは再スタートした川名も加わり、モデルの違うヴィッツ同士でベストタイム合戦を展開した。幅広い世代による興味深いバトルとなったが、その中で天野は「131ヴィッツは重いのですが、タイヤのサイズが大きいんですね。なので、ストップ&ゴーは苦手ですが、反面、天候が晴れてきてタイヤのグリップが活かせるようになると、旋回が速いのでタイムが出せるようになります。そういった点で、今回のラリーは、場所によって得意、不得意な部分が混在していました。そんな中で、ベテランの石田さんよりも走行経験のある無数河などはアックをかけたら、うまくタイムが出ましたね」とベテランらしい組み立て方を明かした。その通り、15.63kmのSS10では、 石田を11.6秒も先行するなど、メリハリの利いた展開でタイム差を維持し、石田に10.6秒差で優勝を果たした。一方、相棒の井上は、これで4年連続のコ・ドライバータイトルが確定。来季は、揃ってのチャンピオン獲りを目指して、再び挑んでいく姿が期待される。
冷静に分析しながら着実に結果を積み重ねて勝利をつかみとった中村。今後のJN1クラスの盛り上がりも楽しみだ。
松岡竜也/縄田幸裕と鷲尾俊一/安東貞敏がストーリア同士のタイトルバトルを繰り広げているJN1クラス。しかしこのハイランドでは、新たな伏兵が現れた。10年ぶりに全日本戦に挑んだ中村晃規/藤原直樹(RX-8)だ。今季全日本の京都戦に併催されていた地区戦部門に参戦し、部門優勝。 「ラジアルタイヤで参戦し地区戦で優勝した丹後半島では、併催の全日本を走る難波さん(同じくRX-8)のタイムをずっと意識していました。その結果、Sタイヤを履いたら行けるんじゃないかな、と感じて、今回全日本部門に参戦しました」という、まさにダークホースだ。その中村は、SS1の駄吉下りI(6.16km)からその難波巧/石下谷美津雄に0.6秒差をつけるベストタイムを叩き出し、周囲を圧倒させる。難波も黙ってはない。同じSSの再走となるSS5では、両者がまったくの同一タイム。「いざ難波さんと争ってみると、いい走りができたなと思ってみても、コンマ秒程度しか差がついていないんですね。それを積み重ねてきていたのに、2日目に入って最初のロング(牛牧→無数河I=15.63km)で7秒も負けてしまって!ここから、自分も吹っ切れていきました」最終SSでは、12.4秒の差をつけたことが効を奏して、最終的に18.9秒差をつけてクラス優勝を飾った。「RX-8は、まだまだ速くなる伸びしろがあると思います。まだ軽量化もしていないですし、足回りやブレーキも(地区戦枠で参戦した)丹後半島のまま、ラジアルタイヤのままです。今回、Sタイヤのグリップ力に、まったく追いついていませんでした。その辺りをきちんとセッティングして、さらに自分の走りも合わせて行けば、どんどん速くなると思います。来年、もっとたくさんの人がRX-8を乗ってくれるようになるとうれしいですね」と、今後の成長が楽しみなコメントを残してくれた。
今年の全日本ラリー選手権もいよいよ大詰め。今季の最終戦「新城ラリー2013」は10月25-27日、今年は愛知県新城市にある新城総合公園 にメイン会場を移しての開催となる。ゲスト選手の参加でイベントが盛り上がる中で緊張したタイトル決戦が繰り広げられる今季最後の戦いでの、ダン ロップ勢の活躍を期待しよう!