第9戦 10月3日(日) 本庄サーキット
川北忠が初の全日本チャンピオン獲得!
東山晃は惜しくもシリーズ2位に
1本だけタイムが残ればいい。プレッシャーの中でも川北忠は冷静に1日をマネジメントした。
残暑の中けたたましく鳴いていたセミがいなくなると、突然秋がやってきた。それと連動するかのように2010年の全日本ジムカーナ選手権も埼玉県の本庄サーキットで最終戦を迎えた。通常走行とは逆走の左周りに設定された決勝のコース。ギャラリー駐車場には多くのクルマが詰め込まれた。イベント参加台数は120台限定。全日本戦シリーズランキング上位の選手だけが参加できるイベントという意味で、スペシャリストジムカーナという名称が与えられている。
全11クラス中、最終戦までチャンピオン争いがもつれ込んだのは実に8クラス!
そのほとんどが接戦で、ダンロップユーザーがチャンピオン争いに加わったのは2クラス。さらに各クラスでは、一つでも上の順位を目指す選手たちの熱い走りが繰り広げられた。では早速注目のクラスから見てゆこう。
抗議が上がり正式結果が発表されたのが午後7時。暗闇のなかでの祝福は忘れられない1日となった。
最終戦までチャンピオン争いがもつれ込んだSA1クラス。シリーズポイント1~4位までチャンピオン獲得の権利を有する選手たち。最後の決戦にダンロップ勢期待のチャンピオン候補、川北忠は挑んだ。上位にいたもの勝ちの熾烈な戦いが始まった。決勝当日の天気予報は、晴れ時々曇り。誰もが一つでも上に行きたいと欲望だけが先走る中、川北はスタート後のS字でスピンを喫してしまう。気がはやったかと思われた1本目のトライ。だが川北は冷静だった。
「今日は悔いを残したくなかったんで、1本目から攻めるだけ攻めようと思ってました。スピンはその結果ですから、後はタイヤを温存してポイントとなるところのデータ収集をしました。タイヤのコンディションと路面がマッチしていたので、2本目は奥のターンから立ち上がってきて、コレは行けると思いましたね。抑えながらでしたけど、最初のS字を抜けたら大丈夫だと思っていましたから」
そのコメント通り2本目、川北のタイムは1分23秒218。本庄を最も走り込んでいるといわれる斉藤邦夫をコンマ3秒かわしてトップにたつと、シリーズリーダー中井川知弘もこのタイムに追いつくことが出来ない。川北は堂々の優勝で初の全日本タイトルを獲得した。
「プレッシャーから開放されて気が楽になりました。全日本フル参戦8年目ですけど、本当に嬉しいです。これまでシリーズ2位が3回ありましたからね。苦労したかいがありました。今シーズンのターニングポイントとなったのは開幕戦の備北かな?あの低温の中、S2で行けた。それと夏場のM2がボクにすごくマッチしてた。前回の鈴鹿はダメでしたけど、夏場もずっと表彰台に上がれた。そこがポイントですかね。来年はクルマとクラスを換えて、新しいチャレンジが出来ればなと思ってます。本当にありがとうございました」と笑顔で語った川北。だがSA1クラスの再車検後、抗議が上がり入賞車両すべてに対してもう一度検査が行われた。4位の選手が失格という裁定が下ったのが午後7時近く。あたりが暗闇に包まれる中、SA1クラスだけの表彰式が行われた。他のクラスからも多くの選手たちが残り、川北に祝福の拍手を送った。大きなプレッシャーのかかる中での劇的な逆転と暗闇の中の祝福。初の全日本チャンピオン獲得は川北に取って忘れ得ないものとなったに違いない。
東山晃は今シーズン投入されたエンジンとタイヤでチャンピオンを狙える選手へと成長した。
こちらも最終戦までチャンピオン決定が持ち込まれたDクラス。ダンロップユーザー東山晃と斉藤孝行の一騎打ちだ。3勝で並び有効得点は、まったく同じの102点。双方ともに2位以上でなければ加点されない。だが獲得した総得点では斉藤に20点の差を付けられている。さらに東山、斉藤の争いにチャンプの資格は無いが5連覇の王者小林キュウテンが加わる。東山にとって全く気が抜けない戦いだ。
1本目1分13秒877をたたき出してトップに立ったのは斉藤。2位に小林、東山は4位に終わる。パドックに並ぶD車。2本目スタートに向けてドライバーたちがマシンに乗り込み、コンセントレーションを高めている。まず小林が斉藤をコンマ1秒上回る。小林のシーズン途中からの参戦以降、先行を許してしまった東山。だが今回は違った。東山は小林を約コンマ6秒上回る1分13秒193をたたき出し逆転。最終走者斉藤の走りを待つ。ともにどちらが勝っても初獲得の全日本チャンピオンの栄冠。だが斉藤は、東山の夢を打ち砕く1分12秒726をたたき出す。東山は2位で2010年の全日本ジムカーナを終えた。
最終走者、斉藤の逆転を聞いた後、悔しさのあまり涙を流したという東山。だが表彰式を終えるといつもの落ち着きを取り戻していた。
「今シーズンはタイヤとエンジンも変わりました。これが自分の乗り方に、すごくマッチしている感じだったんですよ。今日に関しては1ヒート目失敗していた部分があって、置いて行かれてました。2本目はそれを修正しました。まだクルマに速くなる余地はありますが、ドライバーとしては自分が出せるものは全部出し切ったつもりです。だから悔いはないです。結局負けちゃいましたけど、トップを抜き返す事ができた。来年はきっちりとチャンピオンを狙います!」と愛娘と奥さんの前で力強く宣言した。東山がDクラスで3連勝した実力は、誰もが認めるところ。来年こそは栄冠を勝ちとる姿を見せてくださいね、お父さん!
最終戦で意地を見せた茅野成樹。今季2勝は決して満足できない、2011年こそ王者奪還だ。
中盤戦から終盤戦にかけて目に見えて速くなってきたランサー・エボリューションXに抜き去られてしまったダンロップのエボIX勢。各サーキットとの相性はあったものの、最終戦の舞台となる本庄サーキットには多くの選手が期待を込めて参加してきた。昨年も本庄サーキットで開かれた全日本最終戦、N4クラスで優勝を飾ったのは茅野成樹だ。
「昨年はフロントにM1リヤにS1を履いて優勝できました。今回はタイヤが進化してM2とS2の組み合わせで走りました」と茅野。1本目は2010チャンピオンでエボXを駆る菱井将文に約コンマ3秒のビハインド。だが2本目に入って逆転。1分19秒046をたたき出して今シーズン2勝目を挙げた。
「第5戦以来の手応えがありましたね。ただタイムには満足していません。きっちり修正できていれば18秒台はゆうに見えてましたから。でも来年に繋がる形で2010年を終わることが出来て良かったです。今シーズンは3回勝てていました。でも、それを全てパイロンタッチで失敗してる。序盤からエボXをたたきのめすチャンスを、自らフイにしてしまいました。来年の開幕戦となる鈴鹿。低温度の時に鈴鹿での全日本開催って始めてじゃないかな?もうそこにターゲットを絞ってシーズンオフを過ごしますよ」とコメント。来年こそタイトル奪還を期待したい。
エボX投入で得た様々なノウハウ。最終戦では津川信次がエボIXを追い詰める活躍を見せた。
今シーズン最後のイベントを2位と3位で終えた津川信次と川脇一晃。今回は特に津川の調子が良く、エボIXを駆るチャンピオンの天満清を慌てさせるほどのタイム。コンマ6秒ほどのところまでクルマを熟成させた。
「2本目にオオ!って思わせるくらいのタイムを出せたかな?クルマも天候が変わらない限りは、大きくセッティングを変える部分も少なくなってきた。十分進化したねクルマは。ダンロップ関係者からの心強いバックアップもあり、来年につながる結果が残せました。鈴鹿は近くなので、シーズオフはしょっちゅう走りに行っちゃうかもしれませんね」と津川。
1本目天満に100分の1秒差にまで迫った川脇一晃だったが……。「2本目は下心出してしまったね。だけどそんなん出てくるところまでクルマが仕上がった証拠。来年はみんながいい成績を獲れるよう頑張るから期待しててね」と川脇。シーズン中盤4位が続き、集中力が欠けてしまったこともあった。だがそれも全て反省し次々と課題を掲げてきた。
2010年全日本チャンピオンを獲得したダンロップ勢はPN3クラスの野尻隆司とSA1クラスの川北忠のふたり。その他のクラスで惜しくもチャンピオンを逃した選手、目標を達成できなかった選手たち。彼らの熱き想いは、すでに2011年開幕戦鈴鹿サーキットへ向かっている。