D1グランプリシリーズ・エキシビジョン富士 10月17日(日) 富士スピードウェイ(静岡県)
エキシビジョンマッチの追走トーナメントで
野村謙選手が価値ある優勝!!
野村謙選手が追走トーナメントで嬉しい優勝!! 表彰台では嬉し涙を流すシーンも。最高の形でシーズンを終えた
10月16日で、2010年のD1グランプリシリーズ戦は全日程を終えたが、2日目の富士スピードウェイでは、今シーズンを締めくくるエキシビジョンマッチが開催された。いわゆるファン感謝デーとなるD1グランプリのお祭りだ。前日より雲が多く、曇天の朝を迎えたが、予報で好転する見込みであり、風にやや冷たさはあったもののしのぎやすく、訪れた大勢のファンにとってまさに観戦日和となっていた。
エキシビジョンFUJIは、単走世界一決定戦(サブタイトル:黒井カップ)と、ベスト24追走トーナメントの2つがメインイベントとして行われた。
そこで、結果からまずお伝えすると、ベスト24追走トーナメントで野村謙選手がみごとに優勝を決めた。優勝は今シーズン初。シリーズポイントに関係がないエキシビジョンマッチとはいえ、これは価値ある一勝だ。
それでは、ダンロップ勢の戦いぶりを見ていこう。
今シーズンに入って調子を上げてきていた箕輪選手。単走の結果は15位で惜しくも追走トーナメントへの出場を逃してしまった。とはいえ、安定感にも磨きがかかってきた様子。来シーズンの活躍に期待したい
まず、単走世界一決定戦は、文字通りシリーズ戦の単走1回戦であるソロのドリフトテクニックを競うもの。今シーズンはお台場のエキシビジョンマッチでも開催され、野村謙選手が準優勝、今村陽一選手が3位に入賞している。今回は、最終戦の第7戦にエントリーしたすべての選手が出場の権利を得ている。シリーズ戦の単走1回戦と異なる所は、ウォーミングアップランが無く、シード選手が1本のみ、シード以外の選手が2本の走行を許され、高い得点を抽出するかたちで比較、順位が決まる。3人のジャッジによる平均得点が100満点なら単走世界一に限りなく近づく。全選手とも朝の練習走行があったものの、そこからシード選手はぶつけ本番の1本しかなく、条件が厳しい。また、単走世界一決定戦は、次に行われるベスト24追走トーナメントの予選を兼ねており、シードの10名が無条件出場で、シード以外は上位14名が出場の権利を得る。14位以内へ残るべく少しでも高い得点を出しておきたい所だった。
しかし、いざ始まってみると、2連戦とは言え、ハイスピードコースの富士スピードウェイをドリフト攻略するのは容易ではない。ダンロップ勢は、シードを含めて10名がエントリーしていたが、マシントラブルによるリタイヤが続出。最終戦を終えて、マシンの疲労もピークに達していたのかもしれない。福田浩司選手、猪瀬徹選手、さらに日比野選手のハチロクも前日のエンジントラブルを修復する事ができず、急きょ松川和也選手のSC430で出場。シリーズ戦では認められていない、エキシビジョンならではの光景だ。
レース内容としては、野村選手が振り返した先のヘアピンで角度をつけすぎて失速し、姿勢を崩すミスで失敗。古口選手もヘアピンでイン側へと巻き込む状態となり、インカットして失敗。2人のミスは、積極的なドリフトに挑戦した結果と見てとらえる。
日比野選手は扱い慣れていないSC430での一発勝負ということもあり、思い通りの走りにならなかったようだ。シード以外の選手も残念ながら高得点を出せず、ボーダーラインの99点台は箕輪慎治選手の99.06点だけ。ダンロップ勢の最高得点は今村選手が出した99.4点で、12位だった。
この結果、ベスト24追走トーナメントには残念ながらシード以外は残れず、99.06点の箕輪選手もあと一歩の15番手で終わった。
内海彰乃選手と戦った古口美範選手。わずかな差でベスト16入りを逃した。悔しい結果となった
単走世界一決定戦に続き、ベスト24追走トーナメントの1回戦が始まった。1回戦は、シードの1~8位の選手は1回戦の追走が免除となり、16名による戦い。つまり、シード9、10位の2名と、単走世界一決定戦上位14名の、16名による対戦で8名を決めて、シード8名+1回戦勝つ抜け8名がベスト16から優勝を目指して戦うわけだ。
ダンロップ勢で1回戦に出場したのは、シード10位の古口選手。単走で13位の成績だったシルビアの内海彰乃選手との対戦となった。先行の古口選手は300Rの立ち上がりでのスピードと角度はじゅぶん。気迫が伝わってくる。一方の内海選手は古口選手との間隔こそ空いてしまったもののミスがない。この間隔と、若干の300R立ち上がりの浅い角度が減点となり、わずかに古口選手がアドバンテージを得た。入れ替わって後追いは古口選手。300Rの立ち上がりで果敢に内海選手のマシンへ寄せる。が、ドリフトを大きく戻してしまい減点。ジャッジはわずか0.5の差だったが、この1回戦はサドンデスを行わないという規定であったため、ここで涙を呑んだ。
サドンデスでの決着となった今村陽一選手VS藤中学選手。勝者は今村選手でサドンデスとなり、正確で、いつものキレのある走りが戻ってきた
ベスト16は午後からおこなわれた。この追走トーナメントはダンロップの4選手のうち、3選手が左の山に集まってしまった。順当に勝ち進むとベスト8で野村選手VS日比野選手のカード、今村選手がベスト4に進出すると、準決勝で野村選手と日比野選手のいずれかと対戦する事になる。同門によるし烈な争いのトーナメント戦となってしまった。
まずは、今村選手は藤中学選手(RX-7)との対戦カード。単走で6位と調子の良さを見せていた藤中選手に対してチャンピオンはどんな走りを見せるか。先行が今村選手で始まった1本目。300Rの立ち上がり、角度、スピードとも文句なし。ノーミスでヘアピンまでを終える。これに対して藤中選手はインにこそ入り込めなかったものの、ノーミスで終えた。300Rの走りが評価され、わずかに今村が有利になったがほぼイーブン。入れ替わった後追いでも両者ともノーミスで、今度は今村選手が藤中選手のインに入り込めずイーブンとなり、サドンデスで勝敗をきめることになった。今回は特別規定で、サドンデスは1回勝負のみ。僅差でも勝敗が決まる。その1本目、先行の今村選手は1回目以上のスピードと角度に優る走りで300Rから出てきた。藤中選手にインをつかせない。そして、チャンピオンの貫禄を見せたのが入れ替わった後追いだった。300Rからビタビタに寄せる走りで、振り返しから、ヘアピンの立ち上がりまで藤中選手のインにベタ寄せして圧倒。結果、今村選手がベスト8へ駒を進めた。
シリーズ戦で松川和也選手が使うSC430でまさかの!? 大暴れ!! 日比野選手が乗るSC430が会場を大いに沸かせていた
このエキシビジョンマッチのために、マシンをSC430に乗り換えて参戦した日比野選手。お台場でその走りを披露しているものの、乗り慣れないマシンであるゆえに今回の単走でも日比野選手らしいドリフトが見られなかった。ところが、追走トーナメントのウォーミングアップランにて、SC430を豪快なドリフトでアグレッシブに攻める日比野選手の姿が。マシンの特性をすっかり見極めていたのだ。
そして日比野選手の対戦が始まった。相手は強豪の手塚勉選手。先行が日比野選手でスタートした300Rは、ターボのパワーにモノをいわせて豪快に角度をつけて立ち上がる。攻撃的なスタイルの手塚選手に対してインに入らせない。6:4で日比野選手のアドバンテージとなった。入れ替わった後追いでは、手塚選手に対して300Rからマシンを寄せて走り、振り返しでは同時振りで素早く向きを変え、インに入り込んだままヘアピンへ向い、立ち上がる。勝者はもちろん日比野選手。すっかり手足のように操るそれは、まるで700PSのハイパワーな新しい“ハチロク”でも手に入れたかのような光景だった。
廣田友和選手との対戦は走行途中に起きた廣田選手のマシントラブルにより不戦勝という形で野村謙選手がベスト8へ進出
野村選手は、単走を3位で進出した廣田友和選手とのベスト16での対戦カードだった。先行の野村選手は安定感のあるドリフトで300Rを立ち上がり、ミスなくヘアピンを目指す。振り返したあとで廣田選手にインに寄せられるが、ヘアピンの立ち上がりで廣田選手がアウト側へ流されたため、大きなアドバンテージを野村選手が得た。後追いでも野村選手はミスなく300Rを立ち上がる。廣田選手にドリフトできっちり合わせていたが、振り返した直後でなんとアンダーステアとなる。しかし、原因が廣田選手のマシンにオイル漏れであると判明。廣田選手は走行不能となり、不戦勝で野村選手のベスト8進出が決まった。ベスト8では、すでに進出を果たした日比野選手との対戦が確定した。
後半にかけてますます調子を上げてきている強豪、織戸学選手に対して勝利。ようやくいつもの調子が戻って今村陽一選手が準決勝へ
コース上のオイル処理の関係で野村選手の対戦以降、しばらく競技が中断されたが、16時近くになって再開した。まず、ベスト8へ進出した今村選手は、織戸学選手との対戦だった。前日の最終戦で織戸選手にベスト16で敗れているだけにチャンピオンとして一矢を報いておきたところ。今村選手が先行の1本目、スピードも角度も文句なしで300Rを立ち上がってきた。対して300Rから織戸選手も合わせてくる。しかし、振り返しのところで織戸選手がスピン状態となり、今村選手がアドバンテージを得る。後追いでは、今村選手が果敢に織戸選手にドリフトで合わせる。振り返しもシャープであり、間隔を開けない。
そして、そのままヘアピンへと向かい、ここで織戸選手がややアウト側へ流され、勝負が決まった。
同門対決となってしまったが、SC430に乗る日比野哲也選手と野村謙選手の追走はシリーズ戦では見られないもの。互いに手の内を知り尽くした、正々堂々の戦いで大いに盛り上がった
野村選手と日比野選手の同門対決は、野村選手に軍配が上がった。先行が日比野選手の1本目、300Rから野村選手が果敢に寄せ、振り返しからヘアピンまで手綱を緩めない。わずかに野村選手が有利な展開で1本目を終える。入れ替わって、今度は日比野選手が後追いで野村選手を追い回す。振り返し地点ではお返しとばかりの接近ドリフトを見せる。しかし、ヘアピンで日比野選手がドリフトを戻してしまい、これが決め手となった。日比野選手はベスト8で終えたわけだが、お台場でそのステアリングを握っているとはいえ、追走トーナメントからSC430を自分の配下に置いての走りは、自身の適応力の高さまで証明した。「自分が乗りやすいようにセッティングを変えたのがよかったですね」と、走行後にコメント。果たしてマシンチェンジがあるのか!? これで来シーズンの日比野選手の動向がもっと楽しみになった。
準決勝の同門対決は野村選手に軍配が上がった
準決勝は野村選手VS今村選手の同門対決。今シーズンは富士で、そしてエビスでも追走トーナメントでこの対戦カードがあった。上り調子の野村選手と、ベスト16のサドンデスでスイッチが入ったかのように走りにキレが戻った今村選手。どちらが勝っても不思議ではない状況は、やはりサバイバルか……と思われたが、サドンデスもなく、あっさりと決着がついた。今村選手が先行でスタートした1本目、300Rから勢いよく出てきた今村選手だったが、振り返しでドリフトを戻してしまい、姿勢を大きく乱すミスをおかす。原因はサイドブレーキを引いた状態での走行だった事が判明。これが野村選手に大きなアドバンテージをつくった。後追いでビタビタに今村選手が寄せるも万事休す。野村選手が決勝へ進出した。
シーズンを締めくくるエキシビジョンマッチで優勝したチームブリッツ。この勢いで来シーズンも大いに盛り上げてくれるだろう
決勝は斎藤太吾選手との戦いとなった。斎藤選手は今回の単走世界一決定戦で優勝し、この追走トーナメントではパワーにモノをいわせた豪快なドリフトを決めて勝ち上がってきた。絶好調な強豪が来るべくして決勝まで来た、そんな感じすら覚えるほどだった。しかし、野村選手も尻上がりに調子を上げている。スピード、角度、さらには絶妙なマシンコントロールを見せ、迫力だけでなく安定感もバツグンの状態だ。その1本目は野村選手の先行で始まった。300Rの立ち上がり、角度、スピードとも文句なしの野村選手に対して、斎藤選手は300Rからきっちりと合わせてきた。振り返してビタビタに寄せて、そこからヘアピンへと果敢に合わせる斎藤選手だった。ジャッジはイーブン。入れ替わって野村選手が後追いでスタート。今度は野村選手が振り返しでビタビタに寄せ、ヘアピンでインに入り込む。この勝負もほとんど差のないジャッジとなり、勝敗がつかずサドンデスとなった。今回は規定でサドンデスは1回のみ。わずかな差でも勝敗が決まる。その1本目、やはり300Rを斎藤選手が野村選手に合わせて立ち上がってきた。さらに振り返してインに入り込む。しかし、そこからヘアピンへ向かうところで斎藤選手の左フロントが野村選手の右リヤへ接触。両者とも走り切ったものの、野村選手が大きなアドバンテージを得た。そして入れ替わっての後追い。野村選手は300Rをほどよい間隔を保って立ち上がり、振り返しのでインに入り込む。ヘアピンもしっかり合わせるミスの無い走りを見せた。対して斎藤選手にもミスが無かった。ジャッジの結果、その差は0.5。僅差で野村選手がついに2010年の有終の美を飾った。
「とにかく楽しもうと思って走ったとですよ。エキシビジョンだし。金曜日にクルマが仕上がって、ようやく慣れてきて、走るたびに調子がよくなっていくのがわかりましたね。それに、今回もタイヤがよかったとです。グリップ感に変化がなく、しっかり食いついてくれましたからね。決勝はもう、勝つつもりでいきましたよ。嬉しいです。ようやく、長いトンネルを抜けられるかなぁと。そんな感じです。ファンの皆さん、温かいご声援ありがとうございました。来年も見に来んしゃい」
■阿部成人監督のコメント
「エキシビジョンということもあったのだと思いますが、今日の野村さんは落ち着いてましたね。エンジンのパワーはまわりについていけるだけ出ていましたし、トラクションがかかるようにと、今年の途中でメンバーを改良したのも勝因につながったと思います。実は、昨日もいけるかなとは思ってたんですけどね。でも、最後に一番よい結果で終えられ、ダンロップさんに恩返しする事ができたのは嬉しい限りです。今年はまだ1勝もしていませんでしたから……。来シーズンももちろんがんばりますよ!!」