D1グランプリ第3戦 4月23日(土)・24日(日) オートポリス(大分県)
異例尽くしで開幕した2011年D1グランプリ

モータースポーツも復興の足がかり。D1グランプリでは各戦、パドックにて義援金募金、チャリティグッズ販売、チャリティオークションなど東日本大震災への義援活動が行なわれる

オートポリスはD1グランプリが開催されるサーキットのなかでも、ドライコンディションにおける進入速度が200km/hを超えるハイスピードステージだ。これまで計7回が開催されており、昨年、一昨年と春開催となる第2戦で組まれ、今年も同様に第3戦のスケジュールであったが、東日本大震災により、お台場の第1、2戦が6月に延期されたことを受けて2011年のD1グランプリは事実上、オートポリスからの幕開けとなった。
スピードレンジが高く、勝つために必要とされるマシンのパワーも必然的に大きくなるこのステージで初戦を迎えるイレギュラーな今般の流れは、今後どのような展開を見せるのであろうか。 “肩慣らし”をせぬまま、ハイスピードステージに挑む選手たちはもちろん、チームの適応力も問われる過酷な戦いとなりそうだ。
そして、今年からD1グランプリは内容そのものが大きく変わった。これまでどおり単走、追走トーナメントを終えて勝者が決まる点は同じだが、2011年の今シーズンはこのどちらにもチャンピオンシップがあり、単走、追走の部門別チャンピオンと、このふたつを合わせた総合チャンピオンの3つを争うものになった。
単走は、ランキング17位以下を対象とした予選が行なわれ、高得点を出した順に12台が選ばれる。これにランキング16位までの16台を加えた28台が単走ファイナルへ出場する。つまり、ランキング16位までは予選が免除される。これが大きな特徴だ。ここで単走を競い(2ヒート)、1位になれば24ポイント、2位なら23ポイントというように24位までポイントが与えられる。シリーズを通してランキング1位の選手が初代の単走チャンピオンの座を射止めるというわけだ。
追走トーナメントは、追走1stステージと追走2ndステージを設けている。追走1stステージは、単走ファイナルへ出場した24台のなかで、シードとなるランキング8位までの8台を除いた16台が進出し、対戦によって8台に絞られる。追走2ndステージはこの8台とシード8台のベスト16での対戦となる。以後のトーナメントは従来と同じだが、今回から新たに3位決定戦を設けているのももうひとつの特色で、1位~4位までが順位となり、それ以下は順位がなく、ベスト8敗退、ベスト16敗退でくくられる。ポイントは、1位が30、2位が24、3位が18、4位が12。ベスト8敗退は6、ベスト16敗退は3となる。この合算で追走チャンピオンが決まる。なお、追走2ndステージへと無条件で進出する形のシード8台がベスト16敗退になればポイントは加点されないルールだ。
総合チャンピオンは、1戦ごとの単走+追走のポイントの合計により競われる。単走/追走とは別のポイントとなり、1位が35、2位が30と与えられ、この合計得点が一番高かった選手が総合チャンピオンに輝く。つまり、追走で優勝しても総合得点が低いと総合チャンピオンにはなれない。単走、追走のどちらも高度なドリフトテクニックを披露する選手がシリーズチャンピオンに限りなく近づけるというわけだ。これが昨年までと大きく異なる点だ(詳細はD1グランプリ公式ホームページhttp://www.d1gp.co.jp/を参照のこと)。
今シーズンはポイントランキング争いからますます目が離せない。審査員も新しい顔ぶれとなり、どんな審査が行なわれるか、大いに注目されるところといえる。

D1ストリートリーガルからステップアップしてD1グランプリ初参戦の河上善計選手。シルビアは500psの最高出力を誇っている

全長4,674mのインターナショナルレーシングコースの一部を使って行われるオートポリスのステージは、ホームストレートから最終コーナーを立ち上がる、コースを逆走する設定だ。ちょうどクエスチョンマーク(?マーク)を下からなぞるところをイメージするとレイアウトが分かりやすい。ストレートから1コーナー目となる半径40Rの右コーナーへ進入して、クルマの向きを変えて、2コーナー目の85Rの左コーナーへと進入。コーナー立ち上がったところで終了となる。1コーナーの手前までフル加速し、ドリフト状態を作り出して右コーナーから左コーナーへと振り返して2コーナーを立ち上がる。スピード、ラインともに余すところなくドリフト攻略できるかがカギとなるが、200km/hをオーバーする高い進入速度ゆえに攻略は容易ではなく、ドリフトテクニックに加えてドライバーの度胸も試される。じつにスリリングなステージだ。
今年のダンロップ勢は、D1グランプリの人気者でエースの野村謙選手、昨年ついにダンロップへチャンピオンをもたらした今村陽一選手、昨年はエビスで念願の優勝を遂げたハチロクの日比野哲也選手、ハマれば優勝も圏内である古口美範選手の4名はもちろん健在。オートポリスでは4名揃ってシード選手として開幕戦を戦う。オートポリスでの昨年の成績を見ると、単走からキレのあるドリフトを見せて古口選手が3位。4位野村選手、5位今村選手、6位日比野選手と続き、ダンロップ勢が上位のポジションをキープした。こと日比野選手は現チームのドルーピーに移籍して2年目、不利なハイスピードステージでターボ勢をねじ伏せての6位はマシンを完全に支配下に置いた走りであることを証明してみせた。そして、3年目の今年はさらにマシンをパワーアップ。どんな走りを見せるのか注目したい。また、松川和也選手、箕輪慎治選手(今回は不参加)も同様に今年の活躍を期待したい。さらに河上善計選手、深田真弘選手が新たにダンロップ勢に加わり、総勢8名が優勝を目指してシリーズを戦うこととなった。

深田真弘選手は650psのソアラで初のD1グランプリへ参戦。惜しくも単走ファイナルへは出場できなかったが実力は未知数だけに今後に期待したい

予選は4月23日(土)の午後から行なわれた。風が吹いており、4月下旬とはいえオートポリスは肌寒さを感じる気温であったものの、前日からの雨も止んで時おり晴れ間ものぞくまずまずの好天に恵まれた。ダンロップ勢で単走の予選に出場したのは松川選手、河上選手、深田選手の3名だ。午後から練習走行が開始され、その後で予選が行なわれた。
結果、予選を通過したのは松川選手。初戦のハイスピードコースとあり、振り返してから先の大きな2コーナー目に苦しんだようで、なかなかリズムに乗れない走りであったが、大きなミスがなかったのが幸いで、昨年と同様、本戦へと駒を進めた。明日行なわれる単走決勝を勝ち抜き、今年こそオートポリスの追走トーナメントへ出場を決めてほしいところ。マシンは昨年と同様レクサスSC430。650馬力を生かしたパワフルなドリフトに期待したい。
一方、深田選手は18番手、河上選手は22番手となり予選で敗退。両選手とも進入スピードの高さに翻弄された格好となってしまった。しかし、どちらもD1ストリートリーガルを戦ってD1グランプリへとステップアップを果たしているだけに今後に注目だ。
ちなみに、深田選手のマシンは650psを誇るソアラ。「たくさんの先輩ドライバーを見習い、よい成績を出せるように頑張ります」とコメント。河上選手は500psのシルビアで、扱いなれたマシンの利を生かしての参戦だ。「まずは予選を通過して自分自身を成長させたいですね」とコメントしている。

ウエット路面での安定感に優っていた松川和也選手。単走の予選をみごとに通過し、単走ファイナルでも20位の成績となった。残念ながらベスト16入りというところで大会が中止となってしまったが、この調子を堅持して鈴鹿に挑んでもらいたい

決勝が行なわれた4月24日、オートポリスは再び雲が頭上を覆い、開会式が始まる直前になってパラパラと雨が降ってきた。気温も昨日と同様に低め。そして、ついにウエット宣言となってしまった。オートポリスの決勝日を雨で迎えたのは今回が初。ドライ路面では150m看板からドリフト状態となり、1コーナーのクリッピングポイント、2コーナーのアウトクリップという規定のラインも、ウエット路面ではライン上にあるラバーグリップが、スリッピーな状態を生んでしまう。ここをうまく避けながら審査区間でいかに車速の高い状態でドリフトを維持できるか。ハイスピードコースゆえにドリフトを成功させるためのコントロールが一層難しく、とくに進入のワンミスは大きな減点につながる可能性大。ドライとは違った難しさを選手に要求する。事実、ドライからウエット路面へと変わったコースは選手たちを苦しめ、始まった単走ファイナルではスピンやクラッシュが続出した。
そんな悪いコンディションのなか、ウォーミングアップランで調子のよさを見せていたのが松川選手。「自分自身を変え、ひと皮むけた走りを見せますよ」と、昨年はあと一歩というラウンドが多かっただけに気合のコメント。単走ファイナルでは気負った部分も見られたが、単走ファイナルを20位で終え、追走1stステージへの進出を決めた。
なお、ダンロップユーザーでは、単走の予選を通過した藤中学選手(RX-7)、北芝倫之選手(シルビア)が単走ファイナルに出場した。このうち北芝選手が単走1本目をうまくまとめて高得点をマーク。単走15位の成績を残している。

練習走行、単走ファイナルとも安定感が光っていた野村 謙選手。マシンはアメリカなどで使っていた通称“緑号”。戦闘力に磨きをかけて2011年をついに始動した

シードの4名は単走ファイナル~追走トーナメントへ無条件で出場となる。しかし、チャンピオンシップがかかった単走ファイナルは気を抜けない。今回は初戦とあって昨年のシード10名のうち、単走ファイナルの結果次第ではシードの9番手、10番手の選手が単走1stを戦うという規定も設けられていた。ゆえにシードのなかで8番手以内に入っておくことが有利だった。
ダンロップのエース、野村選手はカラーリングを変更したスカイラインで登場。昨年のオートポリスは4位で終えている。地元九州で幸先のよいスタートを切りたい野村選手の単走ファイナルは、悪コンディションのなかでもベテランらしい安定した走りを披露。1本目は高い進入スピードから角度をつけ、振り返してからもドリフトを余さないみごとなライン取りを審査区間をクリアし、98.7点を獲得。2本目も同様で、解説者から「完ぺき」と声が上がったほど。結果、単走ファイナルで8位を獲得した。
野村選手「1.5DAY開催になってちょっと時間が足りんかったとです。ま、いつも通りでいいかとやったらうまく行ったとです。路面はツルンツルンやったとですけど。次戦の鈴鹿は気合入れますよ。今日は雨で残念やったけど、九州の方は岡山、鈴鹿にもぜひ応援しに来てください!!」

鮮やかなイエローのボディカラーへとカラーリング変更した古口美範選手。ハイスピードコースが得意という実力をいかんなく発揮。単走4位の好スタートを切った

古口選手は昨年のオートポリスで3位の成績を残している。今年はマシンのカラーリングをイエローにチェンジ。成熟域に入っているという180SXは650psのハイパワーを誇る。練習走行でもパワーを生かしたハイスピードなドリフトが光っていた。元々がハイスピードコースを得意としている選手ゆえに、単走ファイナルではウエット路面をうまくコントロールして1本目をまとめた。2本目も1コーナーの進入からさらにスピード感に優るアグレッシブなドリフトを見せ、キレイにまとめて99.73点の高い点数を獲得。単走チャンピオンシップでみごと4位に入った。
古口選手「クルマはカラーリング以外、ほとんど昨年と同じです。3位の昨年より上を目指しましたが、ライン取りなどに課題が残りました。そのあたりをもうちょっと煮詰めたいなと思います」

今村陽一選手の2011のマシンも白×赤へとカラーリング変更。追走トーナメントが不成立となったため、総合22位のポジションで次戦の鈴鹿を迎える。ディフェンディングチャンピオンの走りに期待したい

一方で、リズムに乗れなかったのが、ディフェンディングチャンピオンの今村選手と、日比野選手だった。前日の練習走行では車速に乗ったキレのあるドリフトを見せていた今村選手であったが、ウエットコンディションに翻弄された形となり、単走ファイナルの1本目は振り返し後にスピンとなり失敗。気を取り直して挑みたい2本目であったが、1本目の走行後にマシントラブルが発生した。ここで単走はリタイヤ。追走トーナメントへ向けての急ピッチな修復作業が行なわれた。結果、単走は22位の成績で終えている。
今村選手「自分では意識していないつもりだったのですが、ディフェンディングチャンピオンとしての気負った部分が出てしまった感じですね。ドライ路面では乗れていたんですが、ウエットになって、単走でコースアウトしたときにオイルクーラーが壊れちゃいました。追走の大事をとってリタイヤしましたが……。鈴鹿では挽回しますよ!!」

3Sターボを搭載して戦闘力をアップ。今回は悪天候に阻まれたが“ブッ飛んでくる”アグレッシブな走りは健在。ハイパワーを手に入れた走りに注目

日比野選手は、昨年と同様にハチロク(スプリンタートレノ)であるが、エンジンが変わり、これまでの4A-Gから2000ccの3Sターボがベースとなった。圧倒的なパワーを身につけて、ドライ路面で行なわれた練習走行ではスピードに乗った日比野選手らしいアグレッシブなドリフトを見せていたが、ウエット路面では一転し、コントロールに苦しんだようでドリフトが決まらない。迎えた単走ファイナルでは進入で角度をつけすぎてスピンとなり失敗。2本目も同様にスピンとなり、車速が高かっただけにあわやクラッシュかという状況であったほど。23位の単走ファイナルという結果に甘んじてしまった。
日比野選手「ウエットとの相性が悪かったですね。エンジンが変わりましたが、乗り方変えずにクルマのセットアップで何とかしようと調整してきました。ドライはよかったんですが……。(次戦)鈴鹿はNAのときぐらいに振り回せればイケますよ。大好きなコースですから!」

雨と霧という悪天候によってベスト16の追走トーナメン途中で競技中止。そのまま大会が終了というD1グランプリ史上初の珍事となった。ベスト16の3組目に登場した野村 謙選手。その対戦は幻となった

さて、単走ファイナルの後半で雨はいったん上がったが、追走トーナメントが始まる頃になって再び降り始め、さらに途中で雨足が強くなるなど不安定な状態が続いた。気温は真冬を思わせるほど低く、そんななかで追走1stステージが始まった。ここに出場したのは日比野選手と松川選手。両者とも対戦相手に勝ち、ベスト16へ進出を決めた。しかし、ベスト16が始まる頃になって雨に加えて霧がコースの視界を阻んで競技は一時中断。何とか再開したもののベスト16の対戦を3つ終えたところで霧と大雨が再び競技を阻み、主催者の協議の結果、ここで中断、終了となってしまった。この珍事はD1グランプリ史上初。ベスト16の対戦途中で中止となったため、規定により追走トーナメントは不成立で、単走の順位をもって総合ランキングとすることが適用された。(25日現在暫定)
第1、2戦が延期となり、初戦がオートポリス、さらに悪天候によって追走トーナメントの不成立という、異例尽くしで始まった2011年のD1グランプリであるが、ダンロップ勢はコースコンディション不良のなかでも大きなトラブルに見舞われることなく堅調だったといえる。“肩慣らし”を終えた次戦・鈴鹿ではダンロップデーとなる奮戦に期待したい。

■阿部成人監督のコメント
「1.5DAY開催なので、練習走行の時間が少なくあっという間に終わったという感じでしたね。マシンは燃料系統を改善したぐらいで、ほかは昨年とほとんど変わりません。カラーリングが変わったぐらいです。野村さんも乗れていましたし、マシンも調子がよかったんですけどね。雨が降ってきちゃいました。残念です。次の鈴鹿は決勝まで残ったことがありますし、優勝を目指してがんばりますよ」
■藤岡和広監督のコメント
「オイルクーラーの損傷が原因で、結果的に単走を失敗してしまいましたが、クルマ自体はセットアップができていますし、練習からよい走りを見せ、単走は上位を狙えると思っていました。が、その前に終わったという感じです。トラブルを修復して、追走が始まれば本領発揮でどんどん勝って行ってくれたと思います。次戦の鈴鹿は陽一くんと初めて組んだシーズンで5位になりました。このクルマで唯一優勝していないサーキットでもありますし、ぜひ勝利したいですね」
Global Race Category
Domestic Race Category
Motercycle
ニュルブルクリンク2014